大和国小阪村の松田利平の娘やすは、十代の頃から数年間、教祖の炊事のお手伝いをさせて頂いた。教祖は、
「おまえの炊いたものを、持って来てくれると、胸が開くような気がする。」
と、言うて、喜んで下された。お食事は、粥で、その中へ大豆を少し入れることになっていた。ひまな時には、教祖と二人だけという時もあった。そんな時、いろいろとお話を聞かせて下されたが、ある時、
「やすさんえ、どんな男でも、女房の口次第やで。人から、阿呆やと、言われるような男でも、家にかえって、女房が、貴方おかえりなさい。と、丁寧に扱えば、世間の人も、わし等は、阿呆と言うけれども、女房が、ああやって、丁寧に扱っているところを見ると、あら偉いのやなあ、と言うやろう。亭主の偉くなるのも、阿呆になるのも、女房の口一つやで。」
と、お教え下された。
やすは、二十三才の時、教祖のお世話で、庄屋敷村の乾家へ嫁いだ。見合いは、教祖のお居間でさせて頂いた。その時、
「神様は、これとあれと、と言われる。それで、こう治まった。治まってから、切ってはいかん。切ったら、切った方から切られますで。」
と、仰せられ、手を三度振って、
「結構や、結構や、結構や。」
と、お言葉を下された。
【現代の言葉にする】
大和の小阪村に住む松田利平さんの娘「やす」さんは、十代のころから何年も、教祖さまのお台所のお手伝いをしていました。
教祖さまは、
「やすさんが作ったご飯を持ってきてくれると、胸がぱあっと晴れるようにうれしくなるよ」
と言って、喜んでくれました。
教祖さまが食べるのは、だいたいおかゆで、その中に少しだけ大豆を入れるのが決まりでした。
ときどき、やすさんと教祖さまだけのとても静かな時間があり、いろんなお話もしてくれました。
あるとき教祖さまは、こう言いました。
「やすさん、どんな男の人でも、家で女の人(奥さん)がどう話しかけるかで、えらくもなれば、あほうにもなるんやで。
もし、みんなから『あの人はダメな人や』って言われてる男の人でも、家に帰ったら奥さんが
『おかえりなさい』と大事にあつかってあげたら、周りの人も、
『あの人はすごい人かもしれないな』って思うようになるんや。
男の人が立派になるのも、ダメになるのも、女の人の言葉ひとつ次第なんやで。」
その後、やすさんは23才のとき、教祖さまのお世話で、庄屋敷村の乾家にお嫁に行きました。
お見合いは、教祖さまのお部屋で行われました。
そのとき、教祖さまはこう言いました。
「神さまが『これとこれ』と言ってくださったから、こうして話がまとまった。
いったんまとまったご縁(結婚の約束)は、自分から切ってはいけません。
切ったら、自分も切られることになりますよ。」
そして、手を三回振って、
「結構や、結構や、結構や。」
と祝福してくれました。
【ひとつずつ説明する】
◆「やすさんが炊いたご飯は胸が開くようにうれしい」
→ 心を込めて作ったものには、人を元気にする力があるということです。
◆「男の人も女の人の言葉ひとつで立派にもなるし、ダメにもなる」
→ 人を大切に思う気持ちや、あたたかい言葉は、その人の心を強くしたり、成長させたりできる、という教えです。
◆「神さまが決めたご縁は切ってはいけない」
→ 神さまが導いてくださったつながり(結婚や人との縁)を、大事にしていくことが大切、ということです。
◆「切ったら、自分も切られる」
→ 自分から大事な縁を切ったら、あとで自分も苦しむことになるよ、という注意です。
【ぜんぶまとめると】
心を込めた行いは、相手の心を明るくします。
家族や身近な人に向かって、あたたかい言葉をかけると、その人も強く立派になれます。
また、神さまが結んでくれたご縁は大切にしないといけません。
途中で自分勝手に壊すと、あとで自分も困ることになります。
だから、言葉や心づかい、そして人とのつながりをとても大切にする生き方をしなさい、という教えです。
【たいせつな教え(ポイント)】
「心のこもった言葉と行いで、相手も自分も幸せにする」
「神さまからいただいたご縁を大事にする」
ということです。
人を大切にして、心からあたたかい言葉をかけ、そして出会ったご縁を大事にすることが、自分の幸せにもつながるのです。